2017-10-13 10:22 — asano
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今パソコン・PCはブラックボックスになっています。どんな回路構成になっているのか、どんなソフトウェアが入っているのか、ほとんどの人は気にしません。
「いや、俺は気にする」という人でも、XXXチップセットを搭載している⇒このくらいのパフォーマンスが期待できる、OSのバージョンがYYY⇒何とか機能がある、といった機能・性能の指標として気にしている人が大半ではないでしょうか。
周辺機器のハードウェア設計者でもPCI・USBといったインターフェイスの仕様は調べますが本体の回路がどうなっているかは(トラブルでも起きないかぎり)普通は調べません。ソフトウェア設計者もAPIの使い方は知っていますがそれがどう実装されているかは考えません。
これはもちろん悪いことではありません。効率を上げ、互換性を保つには必要不可欠でしょう。
しかし昔は事情が違っていました。各社が互換性の無い機種を発売し、標準的なOSも無く(あっても機能が限られ)、ハードウェアを直接叩かなくては十分なパフォーマンスが得られない状況では内部の情報は重要だったのです。
ということで今回はハードウェア情報(主に回路図)について書いてみます。
黎明期のトレーニングキット時代は公開が前提でした。
メーカとしてはキットでデバイスに慣れ親しんでもらいデバイスの採用に繋げたいわけです。デバイスを使うためのサンプル回路の側面もありますから隠す理由はありません。
現在でもデバイスの評価ボードを購入すると回路図も付属しているのが普通ですが、それと同じことです。
いわゆるパソコンになっても一部のメーカはしばらく公開を続けました。手元に『MZ-700 OWNER'S MANUAL』シャープ. がありますが、回路図はしっかり掲載されています。
メーカが公式に公開していなくてもパソコン雑誌等に掲載されることはよくありました。わかっているものを以下に挙げます。
- Sharp MZ-80K
- 『I/O』1979年11月号,pp.193-205,工学社.
- NEC PC-8001
- 『I/O』1980年12月号,pp.209-216,工学社.
- 『ASCII』1980年12月号,pp.129-144,アスキー.
- Hitachi MB-6890 (ベーシックマスター レベル3)
- 「MB-6890 ベーシックマスターレベル3 全回路図集」,『I/O』1981年3月号,pp.169-176,工学社.
- 『ASCII』1981年3月号,pp.137-152,アスキー.
- Sharp MZ-80B
- 『I/O』1981年5月号,pp.193-219,工学社.
- Hitachi MB-6885 (ベーシックマスター Jr)
- 『I/O』1982年3月号,pp.289-297,工学社.
- Hitachi MB-6885 (ベーシックマスター Jr)用カラーアダプタ
- 『I/O』1982年4月号,pp.304-306,工学社.
- Toshiba PASOPIA
- 「PASOPIA全回路図」,『I/O』1982年11月号,pp.361-378,工学社.
- Casio FP-1100
- 「CASIO FP-1100全回路図」,『I/O』1982年12月号,工学社.
p.392とp.393の間の折込
- 「CASIO FP-1100全回路図」,『I/O』1982年12月号,工学社.
- Toshiba PASOPIAmini TVインターフェイス (本体の回路図は無し)
- 「PASOPIAmini TVインターフェイス回路図」,『I/O』1983年1月号,pp.340-341,工学社.
- SONY SMC-70
- 「SMC-70回路図集」,『I/O』1983年3月号,pp.369-384,工学社.
- 『ASCII』1983年3月号,pp.134-160,アスキー.
- Fujitsu FM-7
- 「FM-7 全回路図」,『I/O』1983年4月号,pp.281-300,工学社.
- NEC PC-6001
- 「PC-6001解析+全回路図」,『I/O』1983年4月号,pp.301-304,工学社.
- Sharp X1
- 「SHARP X1 全回路図」,『I/O』1983年6月号,pp.329-343,工学社.
- Toshiba PASOPIA7
- 「PASOPIA7 全回路図」,『I/O』1983年9月号,pp.329-349,工学社.
- Hitachi MB-S1
- 「MBS1全回路図」,『I/O』1984年6月号,pp.321-336,工学社.
- Sharp MZ-1500
- 「MZ-1500全回路図」,『I/O』1984年9月号,pp.337-345,工学社.
- Sharp X1turbo
- 「X1turbo全回路図」,『I/O』1985年4月号,pp.337-352,工学社.
- Sharp MZ-2861
- 「SHARP ニューコンセプト16ビット・マシン MZ-2861」,『I/O』1987年6月号,pp.172-199,工学社.
- Sharp X68000
- 「X68000全回路図」,『I/O』1987年7月号,pp.249-256,工学社.
- NEC PC-88VA
- 「PC-88VA全回路図公開」,『I/O』1987年8月号,pp.241-264,工学社.
- NEC PC-9801
- 壁谷正洋・桒野雅彦(1983)『PC-9801システム解析別冊 PC-9801全回路図』アスキー.
- NEC PC-8031-2W (PC-8001用フロッピーディスクドライブ)
- 坂本俊夫・玉川昌克・山内直(1983)『フロッピディスク活用ハンドブック PC-80S31』秀和システムトレーディング.
初めの頃は汎用デバイスのみで構成されている機種が多く、その気になれば複製を作れそうなほどでした。
マスクROM以外は全て汎用デバイスのみです。基板は両面だと思うので現物からパターンを起こしたのではないかと思います。
ゲートアレイ等のカスタムデバイスが増えてくると全てがわかるという状況ではなくなりましたが、それでも信号名からかなりのことがわかりました。このカスタムデバイスの信号名が入っていることからメーカがリークしたのだろうと思っています。
これらの情報を元にさまざまなハードウェア・ソフトウェアが作られました。
拡張ボードを作るにしても公式資料はコネクタの信号名くらいしかないということも多かったので、詳細は実測するかこの手の情報が頼りということもありました。あるいは拡張バスの信号だけでは足りずに内部から信号を引き出したり、ICをソケットから抜いて自作の回路を挟んだりするのです。当時からクロックアップする人もいました。
手持ちの機種を新鋭機並みに改造する人もいました。PC-8801⇒PC-8801mk2(これはFDDを除けば簡単です)やMZ-80B⇒MZ-2000、X1⇒X1turboなどが雑誌に発表されていましたね。
ソフトウェアでも今のようにAPIが揃っているわけでも詳細な資料があるわけでもありません。直接ハードウェアを叩くための資料としても有用でした。
そのうちメーカとしても秘密保持が重要になり、ユーザとしてもそこまでの情報があまり必要ではなくなってブラックボックス化していきました。
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